とんだ災難
やがて博士は、箱車から顔を放した。
改めて笑声が、まわりから起った。
「博士さま、お前さまは"コーヒーに追いかけられて大火傷をするぞ"といわれたでねえかよ、はははは」
「はははは。それによ、お前さまの将来は"この世界の涯まで探しても寝床一つ持てなくなるし、自分の身体を埋める墓場さえこの世界には用意されないであろう"といわれたでねえか。やれまあお気の毒なことじゃ。はははは」
「おまけによ、お前さまは"心臓を凍らせたまま五千年間立ったままでいなければならぬ。一度だって腰を下ろすことは出来ないぞ"といわれたでねえかよ。お気の毒なことじゃ。はっはっはっはっ」
笑声のおこりは、博士が牛頭仙人からお告げにあるらしい。すると博士は、コーヒーに追いかけられること、寝床も墓も持てないこと、五千年間立ちん棒をすることを告げられたのだ。
博士は人だかりをかきわけるようにして出てきた。山木も河合も、博士の顔をよく見ることができた。博士は口の中でなにかぶつぶついっていた。
「デニーの旦那。アリゾナの方はどうですかね」
ジグスが声をかけた。
「や、や、ふん、ジグスか。このへんの衆はあいかわらず口が悪いのう」
博士は、ジグスの問いにはこたえず、憤慨(ふんがい)の言葉をもらした。
「旦那。みんな口は良くないが、腹の中はみんないいんですぜ。旦那が一日も早く火星へ飛んで行けるように、みんな祈っているんですよ」
「そうとも思われないが......」
「旦那、火星への出発はいつですか。もうすぐですか」
「そんなことは、話せないよ」
「いって下さいよ。わしは仲間のやつと賭をしているんですからね」
「どんな賭だね。君はどういう方へ賭けたのかね」
「わしですかい。わしはもちろん、デニー博士は今年の十二月までに地球を出発して火星へ向かうであろうという方へ入れましたよ。今となってはとんだところへ入れたものです」
「ふふふふ。まあいいところだ」
「なんですって。もう一度いってくださらんか」
「いや、ふふふふ。賭けというものは必ず負けるものじゃと思っていればいいのだ。そうすれば思いがけない儲けがころがりこむじゃろう」
